目と健康シリーズ No.22

Eye & Health
 

特集:涙道や涙腺やまぶたの病気
 ―涙道手術(ドライアイの手術を含む)と眼瞼下垂症手術―
 

編集
栗橋眼科院長
栗橋 克昭 先生

も く じ

涙もろい人は“いい人”?

 「涙もろい」というと、人情深くて他人の痛みを我がことのように悲しむ人の姿が思い浮かびます。反対に、無慈悲で人間らしさがない人は「血も涙もない」といわれます。どうやら涙の量の多寡には、その人の人間性が表れるようです。

 といっても、もちろんこれは言葉のうえだけの話。なにかの病気のために涙が枯れてしまっている人が冷たい人だとはいえませんし、なにかの病気のためにいつも涙目になってしまう人が本当に“いい人”かどうかはわかりません。

 それでは、どんな病気が涙を枯らしたり、涙目を引き起こすのでしょうか。

涙腺は涙の工場、涙道は涙の排出路

 
 
 最初に、涙がどこで作られ、眼球の表面を潤したあとはどこに行くのかについて、お話ししましょう。

 涙を作っているのは、耳寄りの上まぶたの奥にある「涙腺るいせん」というところです。

 涙腺から分泌される涙には結膜けつまく(白目の部分)の表面から分泌されるムチンという粘液や、まぶたのマイボーム腺というところから分泌される油性の液体や副涙腺ふくるいせんから分泌される液体も含まれています。

人はいつでも泣いている!?

 瞬きをしてまぶたで目の表面をなぞったときや目に異物が入ったときには、角膜かくまく(黒目にあたるところ)や結膜が受けた刺激が涙腺に伝わり、反射的に副交感神経ふくこうかんしんけい支配の涙腺から涙が分泌されます。そして人は、起きている間、無意識に瞬きを繰り返していて、涙がつねに分泌されています。つまり、涙は悲しいときや感動したときだけに出るのではないということです。

 では、常時分泌され続けている涙がなぜ目からあふれ出ないのでしょうか。それは、分泌された涙液が「涙点るいてん」から吸引され、目の外に流れ出ているからです。また、涙の一部は角結膜の表面から空気中に蒸発します。
 
 
 
睫毛〈しょうもう〉クリップ
負荷テスト
まぶたに軽い重りをつけて、代償期の眼瞼下垂を見つける検査
 
 涙点は上下のまぶたの鼻側(目頭めがしら)にあり、涙の排出口としての役割を担っています。涙点から吸引された涙は、涙小管るいしょうかん、涙嚢るいのう、鼻涙管びるいかんを通って鼻の奥に流され、さらにそこから喉へと流れていきます。これら涙の排出経路を「涙道るいどう」といいます。

 まぶたは涙の分泌だけでなく涙の排出のための眼瞼がんけんポンプ、涙小管ポンプにとって重要な役割を担っています。涙嚢・涙小管の壁は海綿体かいめんたいでできていて、厚くなったり薄くなったりして、涙の排出に役立っています。

 交感神経過緊張こうかんしんけいかきんちょうになると海綿体に血液が流入しなくなり、涙嚢・鼻涙管の壁は動かなくなります。まぶたのアキレス腱けんともいえる挙筋腱膜きょきんけんまく(アポニューローシス)が瞼板けんばんからずれると交感神経過緊張になります。この病気は、まぶたが垂れ下がる眼瞼下垂がんけんかすい症として知られています。

 眼瞼下垂症には一見正常に見える代償期だいしょうきのものと、明らかに上のまぶたが下がっている非代償期のものがあります。代償期では視野への影響はありませんが、ドライアイや涙目、疲労や鬱〈うつ〉などを招く可能性が指摘されています。
(眼瞼下垂症については
シリーズNo.27 で取り上げていますので、そちらもご参照ください)

涙の分泌と排出のバランスが崩れると…

 
 
 角結膜に広がっている涙の量は、ごく少量です(5〜10μLといわれますが、実際はそれよりずっと少ない量です)。涙の量が多ければ目からあふれてしまいます。反対に少なすぎると、角結膜はすぐ乾燥してしまいます。

 つまり、涙が目からあふれ出ず、しかも角結膜が乾かずにいつも潤っている状態は、絶妙なバランスの上に成り立っているようです。涙の分泌量や蒸発量などの変化に見合ったちょうどよい量の涙が適宜、排出されなければいけません。それを可能にしているのは、涙点や涙小管・涙嚢に備わっているまぶたを開閉する力と導涙どうるい機能です。

 導涙機能とは、まぶたを開閉する力で涙小管内が陰圧になり、目に溜まっている涙を吸引することなどの、複数の要素が絡み合って涙の排出量をコントロールする仕組みのことです。導涙機能は加齢とともに低下します。それには、まぶたを開閉する力が弱くなり、涙小管内を陰圧にしにくくなることなども影響しています。

涙腺と涙道の検査

最初に涙の分泌量やまぶたの力を調べる

 涙道からの涙の排出が少ないと、涙がこぼれる「流涙りゅうるい」という症状が現れます。また、涙嚢に膿うみが溜まる「涙嚢炎」が起きたり、目ヤニがたくさん出たりもします。このようなときは最初に、角結膜に涙の分泌を刺激するような傷などがないか確認し、続いて涙の分泌量を調べます。
 「涙がこぼれるくらいなら、分泌量は多いはずで、少ないはずはないのでは?」と思うかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。涙が少ないため、涙道にゴミが溜まったり、角結膜が傷つき眼痛などの催涙刺激が加わった結果、流涙が起きているかもしれないからです。導涙機能障害を伴うドライアイで涙道の治療を行い排出量を増やすと、今度は涙が足りなくなってドライアイの症状が出てくることがあります。
 涙の分泌量は、下まぶたに溜まっている涙の深さを計測したり、目に綿糸めんしや濾紙ろしを挟んでその濡れ具合を調べる(綿糸法、濾紙法)など、いくつかの検査を組み合わせた精密涙分泌テストを行うことで、正確に知ることができます。

ドライアイなのに涙があふれるのは…
 

涙道のどこが詰まっているかを調べる

 涙道の状態を調べるには、通水つうすい検査(涙点から涙道に水を入れ、水がきちんと鼻側に流れるかを確認する)などを行います。さらに病状を詳しく知るためには、内視鏡を使った検査や造影剤を注入し画像検査を行います。それらの検査により、涙道の閉塞へいそく部位(詰まっているところ)を見つけたり、閉塞の程度を確認できます。

おもな涙道の病気

鼻涙管の閉塞や狭窄きょうさく、涙嚢炎

 先天的または後天的に、鼻涙管に閉塞や狭窄きょうさく(狭くなること)が起きる病気が原因で、涙嚢に溜まった涙に細菌が住みつき涙嚢炎になることがあります。先天的鼻涙管閉塞は新生児によくみられますが、成長とともに自然に治ることがあります。自然に治らない場合には、金属の棒(ブジー)を涙点から挿入したり、ヌンチャク型シリコーンチューブ(NST。武術で使うヌンチャクのようなかたちのシリコーン製チューブ)を留置して治療します。

 後天的鼻涙管閉塞の多くは原因不明ですが、感染や炎症などが原因となることがあります。NSTを涙点から挿入したり、涙嚢鼻腔吻合るいのうびくうふんごう術という手術で治療します(
次項を参照)。または通水検査のときに、水圧で涙嚢や膜性まくせい鼻涙管を拡張し、診断と治療を同時に行うこともあります。

そのほかには

 涙小管や涙点が閉塞する場合もあります。鼻涙管閉塞と同じように原因不明のことが多いですが、感染や炎症、外傷などが原因になって発病することがあります。

 涙小管の中に石ができ、目頭の部分が腫れて、一見ものもらいのように見えることもあります。この場合、涙小管を開いて石やその刺激でできた腫瘍を取り除き、涙小管を形成する手術を行います。

 また、眼瞼下垂症が流涙の原因になっていることがあり、眼瞼下垂症手術によって流涙症が治ることがあります。

涙道を拡張・再建する手術治療

ブジーの挿入(プロービング)

 涙道の閉塞部分を開くための治療として、ブジーという金属製の細い棒を涙点から挿入する方法です。閉塞部分を見つけるための検査や、次項で解説する手術の補助として、これを行うこともあります。
 
 
 
NST(ヌンチャク型シリコーンチューブ)

涙道シリコーンチューブ挿入術

 シリコーンチューブを涙点から挿入し、閉塞・狭窄部分を拡張します。術後、チューブはそのままにしておき、涙道が十分広がり安定したころ(数週〜数カ月後)に抜き取ります。チューブはヌンチャク型のタイプ(NST)が圧倒的に多く使われています。NSTの両端を上下の涙点から挿入することで、涙道内で優れた安定性を発揮し、また正確かつ安全に短時間で挿入できます。

涙嚢鼻腔吻合るいのうびくうふんごう術(DCR)

 涙嚢-膜性鼻涙管と鼻腔(鼻の奥)を直接つなぐ手術で、より効果の高い治療法です。鼻の付け根の骨に穴を開けて、骨性鼻涙管の中の膜性鼻涙管を出し、涙嚢-膜性鼻涙管を開く方法と、鼻の下方の骨に覆われずに露出している膜性鼻涙管に、内視鏡やレーザーを用いて穴を開ける方法(DCR下鼻道法)があります。涙小管からレーザーで骨や粘膜に穴を開ける方法(DCR涙小管法)も登場しました。

 DCR下鼻道法も涙小管法も、からだの負担が少ない手術です。

涙小管形成術

 涙小管の閉塞部分を内視鏡やレーザーなどで開いたり、断裂を縫合ほうごうしたりします。涙小管の全部が閉塞しているときは、目頭から涙嚢に向けて新たな涙小管を作ります。成功率を高めるためにNSTを留置します。新しい涙小管を作るために涙丘るいきゅう(目頭にある塊)を移動することもあります(涙丘移動)。

全涙道再建術

 涙小管が強く閉塞していたり、さらに鼻涙管閉塞が合併している場合は、前記のDCRや涙丘移動などの複数の手術を同時に行います。

ドライアイの治療

 ドライアイに対しては涙点を塞ぐ治療や濡れガーゼマスクが行われています。涙腺からの分泌量を増やす方法として、十分な水分の補給と交感神経過緊張の緩和が重要です。まぶたのアキレス腱である挙筋腱膜が瞼板からずれると交感神経過緊張になり、血行・代謝を含む自律神経機能が低下します。ずれている挙筋腱膜を修復することで、肩こり、冷え症、頭痛、不眠だけでなく、涙液の分泌量が増加しドライアイが治ることがあります。

 一方、涙道や眼瞼下垂症の手術後に、ドライアイがめだってくることがあります。このときは次の涙点閉鎖などを行います。
(ドライアイについてはシリーズ
No.14 で取り上げていますので、そちらもご参照ください)

涙点プラグの装着や涙点閉鎖

 涙点にプラグを挿入し排出される涙を減らす、治療もかねた検査方法です。よい方法ですが、プラグが抜け落ちやすいという欠点があります。しかし、検査が目的ですので問題ではないでしょう。より安全に挿入できる糸付き涙点プラグも、私たちにより開発されています。涙点閉鎖は、涙点を焼いて閉じてしまう小さな手術で、効果も確実です。
 
 
 
ブリムNST
 

ブリムNSTの装着

 安定性がよい、ツバ付き半切ヌンチャク型シリコーンチューブ(ブリムNST)を使用すると、涙点プラグのように抜け落ちたりしません。

濡れガーゼマスクの装用

 このほか、患者さん自身でできる治療法として、パソコンなどのモニターを見ているときや睡眠中の涙の蒸発を防ぐために、濡れガーゼマスクをする方法があります。呼気の水分が目を潤し、ドライアイ症状が軽くなります。

涙道手術や眼瞼下垂症手術のこれから

 わが国の涙道疾患の治療は世界のトップレベルにあります。これは私たちにより世界に先がけて、手術顕微鏡などを用いた詳しい臨床解剖が行われたことが関係しています。

 総涙小管と涙嚢の間の隆起や下鼻道の膜性鼻涙管は、私たちが報告しました。また、NSTやブリムNST、糸付き涙点プラグ、綿糸法、精密涙分泌テスト、涙嚢鼻腔吻合術下鼻道法、涙丘移動は、私たちが開発したものです。

 眼瞼下垂症が交感神経過緊張を起こし、肩こり、冷え性、頭痛、不眠などの原因になっていることも、わが国の研究でわかってきました。眼瞼下垂症手術が涙道の病気やドライアイを改善することもよくあります。

 しかしこれらの治療法の進歩はまだ十分に行き渡っておらず、今は黎明れいめい期にあります。ですから医師だけでなく一般の方も、この分野に十分に関心を払って、その発展を見守ってください。

おもな涙腺の病気

 ここまではおもに、涙の排出経路である涙道の病気・治療について解説してきましたが、最後に涙の工場である涙腺に起きる病気についてもお話ししておきます。

神経障害の影響

 顔面神経麻痺や聴神経腫瘍ちょうしんけいしゅようで、涙腺に向かう神経が障害されると、涙腺機能が低下し涙の分泌が減少します。ただし顔面神経麻痺の場合は、涙を排出する導涙機能も低下するため、症状が目立たなくなります。

涙腺炎

 細菌感染などのために涙腺に起きる炎症を涙腺炎といいます。全身の病気(かぜなど)の一つの症状として現れることもあります。

シェーグレン症候群

 自己免疫疾患の一つで、女性に多い病気です。涙腺機能が極端に低下し、同時にほかの分泌腺の分泌も少なくなって、目や口、鼻などが乾燥します。

 
涙腺で作られる涙の量はほんのわずか。
そのわずかな涙を、いつも枯らさずにあふれさせないなんて、まぶたや涙道って、大活躍してるんだネ!

シリーズ監修:堀 貞夫 先生(西葛西・井上眼科病院院長、東京女子医科大学名誉教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月改訂