目と健康シリーズ No.17

Eye & Health
 


編集
至誠会第二病院院長
金子 行子 先生

特集:結 膜 炎


 

も く じ


 昔から患者数が多い眼科の病気の代表が結膜炎です。それだけに「ありふれた軽い病気」と思われることが多いようですが、感染し流行することもある病気ですから、患者さんに知っていただきたい大切なこともあるのです。まずは「結膜ってなに?」という話から始めましょう。

結膜の仕組みとその特徴

 眼球は上下左右自由に動かせます。この動きを可能にするためには、眼球とまぶたがいくらか余裕をもって接していなければなりません。かといってそこにすき間があいていたら、外部からゴミなどの異物が眼球の後ろまで入り込み、眼はたちまち大変なことになってしまいます。
 ですから眼球とまぶたの間には、ピッタリと癒着〈ゆちゃく〉はせず、それでいて外部と眼球内部を隔てる仕組みが必要です。その役割を担っているのが、まぶたの裏側と眼球前方の表面を結びつないでいる薄い膜「結膜」です。この結膜に炎症が起きるのが結膜炎です。
 結膜は、まぶたを開いている間ずっと外部にさらされていて、とても刺激を受けやすい部位です。また結膜はその仕組みから、まぶたによって袋のような構造になっていて、異物が溜まりやすい状態にあります。さらに、いつも涙で濡れているので、水分、温度、栄養があるという、細菌やウイルスの繁殖に最適な環境を提供しています。
 結膜炎が昔も今も多いのは、このような背景から、結膜には感染やアレルギーなどによる炎症が起きやすいためです。

おもな結膜炎のタイプと治療

 ひと口に結膜炎といっても種類がいろいろあり、対処方法が異なります。

感染によって広まる結膜炎

ウイルス性結膜炎

ウイルスは 細菌よりもさらに小さな微生物です。自分だけでは生きられずに、ほかの生物の細胞に入り込んで増殖活動します。結膜炎を起こすウイルスは数多くのタイプがあり、結膜以外にも咽頭〈いんとう〉(のど)をはじめいろいろな部位の炎症を起こします。
症状は 結膜の充血、目ヤニがたくさん出る、まぶたが腫れる、まぶたの裏側にブツブツができる、目がゴロゴロする、まぶしい、などがおもな症状です。また、耳の前に触れると痛みを伴うグリグリとした腫れが出ます。これは、ウイルスと戦う免疫機能を司っているリンパ節の腫れで、ウイルス性結膜炎に特徴的な症状です。
流行シーズンは夏 ウイルスは温かい所が大好きですから、この結膜炎は夏場によく流行します。
治療は 結膜の細胞のウイルスを効果的に排除する薬はありません。このため、症状がそれ以上ひどくならないように、炎症を抑える点眼薬や、細菌の混合感染を予防する目的で抗生物質の点眼などを続けます。
人にうつさないように 結膜炎を起こすウイルスの中には、感染力が非常に強いものがあります。結膜炎にかかったら、周囲に感染させないように、十分注意してください「しっかり治して、人にうつさないために」の項目参照)
左の写真はウイルス性結膜炎で、右眼の球結膜(白目の部分)が充血し、まぶたが腫れています。
右の写真はウイルス性結膜炎によるリンパ節の腫れです(点線部分)。

上の写真はアデノウイルス結膜炎で、瞼結膜が充血しています。
中央の写真はアデノウイルス結膜炎が治るころに現れることがある角膜の濁りです(中央の白っぽく見える部分)。
下の写真は急性出血性結膜炎で、白目がまっ赤になっています。
 ここで、おもなウイルス性結膜炎をとりあげて解説します。

流行性角結膜炎(はやり目)
 アデノウイルス8型(ほかに19型など)という感染力の強いウイルスが原因で、一般に“はやり目”と呼ばれている結膜炎です。ウイルスに感染して1週間前後の潜伏期間を経てから発病します。ほかのウイルス性結膜炎よりも結膜の症状は強く、目ヤニや充血、腫れ、痛みも伴いますが、通常は発病後10日ぐらいで軽くなります。
 結膜炎が治りかけるころに、角膜(黒目の部分)に点状の小さな濁りが出ることがあります。これはそのうち自然に消えてなくなります。しかし濁りが瞳にかかると、それが消えるまで視力が低下することもあります。また、結膜炎がひどい場合には、あとでドライアイになったり結膜に瘢痕〈はんこん〉を残すこともあります。いずれも眼科でしばらく治療が必要です。

咽頭〈いんとう〉結膜熱(プール熱)
 アデノウイルス3型(ほかに7型など)の感染で起こります。夏場にプールの水を介して子どもに感染することがよくあるので、“プール熱”とも呼ばれています。ウイルスに感染してから発病まで5~7日の潜伏期間があります。
 病名からわかるように、のどの痛みや発熱を伴い、かぜのように全身がだるくなったり下痢をしたりします。発病から10日ほどでよくなってきます。

急性出血性結膜炎
 潜伏期間が約1日と短いことと、鮮やかな結膜下出血を起こすのが特徴の結膜炎です。発病後1週間程度で治ります。なお、結膜下出血が起きると白目がまっ赤になるので患者さんはビックリして慌てますが、出血はそのうち吸収されるので心配いりません。
 この結膜炎のウイルスは、1969年にアフリカで初めて発生し世界的な大流行を引き起こしたエンテロウイルス70型と、同時にシンガポールを中心に東南アジアで流行したコクサッキーウイルスA24型があり、比較的新しいウイルスです。今は流行は軽くなってきています。

クラミジア結膜炎(封入体〈ふうにゅうたい〉性結膜炎)

 クラミジアトラコマティスによる感染症です。結膜のほか角膜にも炎症が起き、進行すると視力に影響を及ぼします。また、生殖器などにも影響が現れます。
 かつては「トラコーマ」として日本をはじめ世界中どこにでもあった病気で、主要な失明原因でしたが、環境衛生がよくなった先進国では激減しました。一方、性交渉で感染したり、母親からの産道感染で赤ちゃんに結膜炎が発病することもあります。
 クラミジアに有効な抗生物質により治療できますが、病原体そのものの除去には少し時間がかかり、数か月ぐらい薬が必要となります。病気を完全に治し、感染を防ぐために、性交渉のパートナーにもぜひ検査・治療をすすめてください。

細菌性結膜炎

 細菌感染による結膜炎で、結膜が充血し、目ヤニが出たりします。原因となる細菌はいろいろありますが、ウイルス性結膜炎と異なり有効な点眼薬(抗生物質)があるので、短期間で治ります。ただし淋〈りん〉菌による結膜炎は、進行すると角膜に影響が及んで視力が低下することがあります。
赤ちゃんの結膜炎、子どもの結膜炎

 赤ちゃんに多いのは、出産時の産道感染によるもののほか、涙のう炎からくる結膜炎です。赤ちゃんはまだ鼻涙管〈びるいかん〉という、涙が鼻の奥へ吸収される通り道が、完成していないことがあります。その場合、鼻涙管の手前の涙のうという所に目ヤニが溜まり、涙のう炎、結膜炎を起こしやすくなります。鼻涙管を開放する手術と、点眼薬で治療します。
まぶたの裏側にできた偽膜
 子どもの結膜炎の特徴は、大人よりも症状が強く現れることです。とくにアデノウイルス結膜炎(はやり目)では、まぶたの腫れがひどく、まぶたの裏側に偽膜〈ぎまく〉という白い膜ができたり、出血したりすることもあります。治療法は大人の場合と同じで、目薬の点眼が基本です。
 なお、赤ちゃんに目薬をさすのを「痛そうでかわいそう」などといって、ためらうお母さんがいますが、赤ちゃんの目の病気は早く治さないとよい視力が育たたず、弱視になってしまう可能性があります。赤ちゃんがいやがってもしっかり点眼してください。目をつむっていても目頭に点眼すれば、赤ちゃんが薄目をあけた瞬間に、目に薬が入っていきます。

感染はしない結膜炎

アレルギー性結膜炎

アレルギーとは 人体には、異物が体内に入り込もうとすると、それを察知して排除する免疫機能があります。この免疫機能が必要以上に敏感に反応してしまい、人体にとってはそれほど害のない物までも排除しようと働くのがアレルギーです。花粉やカビ、ダニ、ペットの毛、チリ、フケ、特定の食べ物などが、よく原因となります。
アレルギー性結膜炎
症状は 結膜の充血、目ヤニが出る、まぶたが腫れる、目のかゆみ、涙目などがおもな目の症状です。しばしば鼻アレルギーを併発します。
治療は アレルギーを抑える点眼薬や炎症を抑えるステロイドの点眼薬などで治療します。アレルギーを起こす原因がはっきりわかっているときは、できるだけそれを避けることで、症状が軽くなります。

春季カタル

 アレルギー性結膜炎の一種で、症状が強く、とくに春から夏にかけて悪化しやすく「春季カタル」と呼びます(カタルとは、粘膜の表面の炎症のことです)。結膜だけでなく角膜にも炎症や潰瘍〈かいよう〉が起きることがあります。アトピー体質の子どもがなりやすい病気ですが、多くは成人するまでに軽快します。

結膜炎の合併症

ウイルス性結膜炎の合併症
として起きた角膜の潰瘍 
 結膜炎は眼球の表面に付着している結膜の病気ですから、ひどくなっても眼球内部に変化は起こらず、失明することはほとんどありません。しかし、結膜炎に合併症が起きると視力に影響が残るケースもあります。
混合感染 いったん結膜炎になると、正常な結膜に備わっている感染防御機能が働かず、新たな細菌に感染することがあります。これを混合感染といいます。
角膜混濁 角膜の表層部分は結膜とよく似た性質のため、強い結膜炎の場合、混濁を作ることがあります。また、混合感染のようなとき、まれに角膜の濁りで視力障害が残ることもあります。
ドライアイ 結膜に強い炎症が起きると、それが治ったあとも涙の分泌が少なくなることなどから、ドライアイになります。
 このような合併症を起こさないためにも、結膜炎をあまく考えずに、早めにきちんと治しましょう。

しっかり治して、人にうつさないために

 感染する結膜炎にかかったときに忘れてはならないのは、病気を人にうつさないよう注意することです。ここでは感染防止対策を紹介します。少し手間がかかりますが、しばらくがまんしてください。
 なお、感染する結膜炎かそうでないかの判断に少し時間がかかることもあります。その場合は、まずは感染するものと思って対処してください。

目をこすったり、さわったりしない
 結膜炎の目に触れた手で物をさわると、そこが感染源になってしまいます。
よく手を洗う
 患者さんだけでなくご家族も、石けんを使って流水(蛇口の水)でこまめに手を洗ってください。また、使用後は蛇口に熱湯をかけてください。
ペーパータオルを使用
 ウイルスや細菌は水分が大好きですから、タオルは使い捨てのペーパータオルにしましょう。
お風呂は最後に入り浴槽のお湯は捨てる
 症状がひどいうちはお風呂はがまんしてください。症状が軽くなれば入ってもよいですが、しばらくは最後に入り、湯船のお湯は毎回かえてください。洗面器は家族と別のものを使用し、使用後に熱湯をかけてください。お風呂のお掃除もきっちりと。
別々に洗濯して日光によく干す
 患者さんの衣類や枕カバー、シーツなどは、ほかの家族とは別に手洗いで洗濯し、洗濯後は日光でよく干してください。
目薬は患眼だけに
 点眼の際に目薬の容器の先端がまつげにつくことがよくありますが、それによって結膜炎ではないほうの目にうつってしまう可能性もあります。目薬は結膜炎のほうだけにしてください。また、点眼の前後には手をよく洗ってください。
学校はしばらくお休み
 眼科医が許可するまで、学校はお休みします。
プールは医師の許可が出るまで禁止
 プールは結膜炎が治ったあともしばらくは許可されません。なぜかというと、結膜炎の原因となったウイルスはおなかの中にも入っていて、結膜炎の症状が消えたあとも腸管からウイルスが排便のときに出てきてお尻についているからです。プールの水が一定濃度以上の塩素を含んでいたり、腰洗い槽があるのはそのためです。


 はやり目の結膜炎で大切なこと。その一は、周りの人にうつらないように、よく気をつけること。その二は、合併症が起きないように、お医者さんに大丈夫って言われるまでちゃんと治療を守ること。覚えてネ!


シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (東京女子医科大学眼科教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2003年2月発行