目と健康シリーズ No.13

Eye & Health
 


編集
八重洲大島眼科院長
岡 島 修 先生

特集:色覚の異常


 

も く じ


色覚に異常があるってことは、色がわからないってことかなぁー。
きれいな景色もカラーテレビも、白黒にしか見えなかったら寂しいな。
治す方法はないのかな?
 
 

色は人によって違って見えるもの

色覚の異常とは、どんな状態?

“物を見る”という機能は、視力、視野、色覚の三つに支えられています。視力は細かい物を見分ける力、視野は同時に見渡せる範囲、色覚は色を識別する感覚のことです。

 この三つの機能は、網膜(カメラのフィルムまたは撮像素子に該当する組織)にある光を感じとる「視細胞〈しさいぼう〉」の働きに委ねられていて、視細胞がうまく機能しないと、視力が低下したり、視野が狭くなるなどの異常が生じます。色覚についても、視細胞の機能次第で色を識別しにくくなる状態があり、それを色覚の異常と呼んでいます。

先天色覚異常と後天色覚異常

 色覚の異常には、先天性と後天性があります。先天性の場合は原因が遺伝的なものなので、現時点では有効な治療法がない一方、色覚異常の程度は変化せず、また色覚以外の視機能は問題ないことがほとんどです。

 後天性の場合は、なにかの病気(緑内障や網膜の病気など)の一つの症状として、色覚に異常が現れます。ですから色覚以外の視力や視野にも影響が出たり、病気の状態によって色の見え方が変わることがあります。

 後天色覚異常では、もとにある病気自体が治療対象となり、色覚の異常だけがクローズアップされることはあまりありません。そこでこの小冊子〈パンフレット〉では、先天性の色覚異常を中心に話を進めることにします。

男性の20人に1人。色覚異常はまれではない

 先天性の色覚異常は、日本人男性の5パーセント、女性の0.2パーセントの頻度で起きていて、国内で300万人以上が該当し、まれなものではありません。ただしその程度は人によって異なります。検査で指摘されない限り気付かない人もいれば、社会生活に支障を感じる人もいますが、多くのケースでは、色覚の異常のため日常生活に困ることはありません。

色覚異常の分類〜見え方の違いについて

 すべての色は、光の三原色といわれる赤、緑、青の三つの光の組み合わせで作られます。色を感じとる視細胞も、赤に敏感なタイプ、緑に敏感なタイプ、青に敏感なタイプの3種類があります。色覚の異常は、この3種類の視細胞のうちのどれかが足りなかったり、十分機能しないために起こります。

●2色覚…3種類の視細胞のうち、どれか一つが欠けている場合を2色覚(いわゆる色盲)といいます。赤を感じる視細胞がない場合が1型2色覚、緑を感じる視細胞がない場合が2型2色覚です。

●異常3色覚…視細胞は3種類あっても、そのうちどれかの機能が低下している場合は異常3色覚(いわゆる色弱)といいます。赤を感じる視細胞の感度が低い場合が1型3色覚、緑を感じる視細胞の感度が低い場合が2型3色覚です。

 このほか、青を感じる視細胞に異常がある3型色覚や、1種類の視細胞しかない1色覚(全色盲)などもありますが、頻度はごくまれです。

区別がつきにくいのはどんな色?

 
■ 色の誤認を起きやすくする条件
対象物が小さい(色の面積が狭い)
彩度が低く、あざやかでない色
明るさが足りない(暗い)
短時間で色を判別する必要がある
見る物に対する色の先入観
疲れなどのため注意力が低下している
 
 「色盲とはすべてが白黒に見える状態」と思っている人が多いようですが、それは「色盲」という表現から生まれた誤解です。このため日本眼科学会では「色盲」という用語をすべて廃止しました。色覚に異常があっても区別のつきにくい色があるだけで、目に写る風景はカラーの映像です。

 では、どんな色が区別しづらいのでしょうか。頻度の多い2型色覚(2型2色覚と2型3色覚)の人が間違えやすい組み合わせは、オレンジ黄緑(きみどり)ピンク(しろ)灰色灰色です。1型色覚(1型2色覚と1型3色覚)の場合これに、ピンクが加わります。

 もちろん色覚に異常がある人のすべてがこれらの色を間違える(誤認する)わけではなく、一つしか該当しない人もいれば、ほとんどすべてがあてはまる人もいます。また、同じ人がいつも同じように誤認するのではありません。色を誤認しやすくする要因が、いくつかあげられます。

 






 光の波長(nm)
3種類の視細胞の光に対する感度
 
光の波長と色の変化

 光の色は、波長の長さによって決まります。虹は七色といわれますが、その順序は波長が長いほうから順に、赤橙黄緑青藍紫です。人の目が感知できる光の波長は400〜800nmまでです。波長が赤より長い光は赤外線、紫より短い光は紫外線で、人の目には見えません。

 光の三原色の赤・緑・青に感受性が高い3種類の視細胞がちゃんと機能している場合、波長の長い光から短い光までバランスよく感じ取れるので、色を正確に認識できます。これに対し、視細胞の機能低下のために、感知できる光の情報が部分的に不足して、識別しにくい色が生じるのが、色覚の異常です。

※nm:ナノメートル。1ナノメートルは10億分の1メートル。

色覚の検査

 先天色覚異常の場合、色の見え方が変化することはないので、一般の病気の治療のように、定期的に検査を受ける必要はありません。しかし、色覚の異常を見つけ、それがどの程度でどういう誤認を起こしやすいかを知るためには、検査が必要です。

 
●仮性同色表(色覚検査表)よく知られている「石原表」のように、色のモザイクの中から数字や記号を読み取る検査です。色覚異常の有無を見つけるのに適しています。かつて小学4年生全員に行われていたこの検査は、平成15年度以来、必須の検査項目からはずされていましたが、平成28年度から再び多くの小学校で、希望者を対象に実施されるようになりました。

●パネルD-15…15色のパネルを、基準となる色に近いと思うものから順に並べていく検査です。色覚異常の程度を把握するのに適していて、生活上の実際的な問題(色誤認を起こしやすいか否か)とよく相関した結果が得られます。

●アノマロスコープ…色覚異常を正確に診断するための重要な検査で、色光〈しきこう〉の色合わせによって判定します。しかし機器が高価で扱いも難しいため、あまり普及していません。

色覚の異常との付き合い方

色覚に異常があることをどう考えるか

 今の医学では、先天性の色覚異常を治すことはできません。しかし、色覚異常は色の見え方が少し違うだけで、それが悪化する心配はありません。また、頻度的にもごくありふれたものです。

 色覚は、その人の生き方を左右するたくさんの条件の中の一つにすぎず、色覚に異常があるからといって人生が決定づけられることはありません。色覚の異常を自分という人間を形づくる一要素として受け入れ、マイナス思考を排除することが、より充実した生活を送るコツと言えます。
 
 プラス思考を大切に
 

自分の色覚の“くせ”を知っておくことのメリット

 間違えやすい色、区別がつきにくい色は、人それぞれ異なります。色覚に異常があることがわかったなら、なるべく早めに検査を受けて、自分の色覚の“くせ”を理解しておくようにしましょう。そのことで、色誤認しやすい状況・注意すべきポイントがよくわかりますし、就職後に問題に気付いて転職するなどの回り道も少なくできます。色覚の異常は一つの弱点には違いないので、早くそれに気付いたほうが、後から余計な無理をしなくて済むはずです。
 色誤認の具体的な例をあげてみましょう 

◇日常で…
 
 カードゲーム
 色に意味をもたせてあり、色覚の異常があると遊びづらいゲームです。
 
緑の木々の中の紅葉がわからない/熟れたトマトとまだ緑のトマトを区別できない/1灯式の信号が赤の点滅か黄色の点滅かわかりづらい/充電完了ランプの色の変化がわからない/桜の花はピンクではなく白だと思っていた/カレンダーの祝日が見分けられない/靴下を左右色違いで履いてしまう/色で区別されているコードの接続に苦労する

◇学校で…
緑の黒板の赤い文字が読めない/強調のために赤で書かれた文字もほかの黒文字と同じに見える/仕切り線が入っていないと円グラフが読み取れない/描いた絵の色使いがおかしいと言われた

◇職場で…
コンピューター画面の色のみによる情報分類が難しい/注文と違う色の製品を納入してしまった/電鉄会社に就職後に色覚の異常がわかり配置転換になった/新鮮な食材と傷んだ物の区別がつかず、板前修行をあきらめた

色だけで区別された路線図
色覚が正常な人には便利ですが、色覚に異常がある人は、読み取るのに苦労します。

先天性の色覚異常は遺伝するそうですが、父親が色覚に異常があれば、必ず子どもも色覚の異常が起きるのですか?
 赤緑色覚異常(1型色覚と2型色覚)は伴性遺伝です。色覚に異常がある父親の娘が保因者となり、男の孫に色覚の異常が現れます。つまり、直接の子どもには、色覚の異常は現れません。より詳しくは、父に色覚の異常がある場合、母が保因者か色覚の異常がある場合、および、父に色覚の異常があり母も保因者か色覚の異常がある場合の三つのケースがあって、その男子・女子に色覚の異常が現れる確率、遺伝子が引継がれる確率が、それぞれ異なります。

 色覚の異常が結婚の妨げになったり、結婚後、生まれた子どもに色覚の異常があるとわかったときなど、遺伝のことで両者が不和になることもありますが、それは残念なことです。ご家庭や子どもの幸せは、当然ながら色覚のことだけに左右されるものではありません。ご夫婦で互いにそれを受け止め、より豊かな人生を送るように、前向きに考えたいものです。そもそも遺伝による病気や身体的ハンデキャップは、まだ遺伝子が明らかになっていないだけで、色覚の異常以外にもたくさんあるのですから。

 なお、日本人女性の10人に1人が保因者であることがわかっています。ただし、検査をしても、その女性が保因者かどうかは、正確にはわかりません。

色覚異常にもよい治療法がある、という情報を耳にしましたが…
先天色覚異常の場合、治療法はありません(後天色覚異常は原疾患の治療により治ります)。色覚の異常が治る、という情報が伝えられることがあります が、それは検査表を何度も繰り返し見て数字や記号を覚えてしまった結果や、暗示的なことだと考えられます。そうした“治療”により患者さんが主観的に治ったと思うことがあるので、時折こうした情報が話題になるのですが、医学的に先天色覚異常が治ることはありません。

 また、色が見やすくなるメガネなども出回っていて、それらを用いると、確かに特定の色を見分けやすくなることがあります。しかし、特定の色以外は逆に見にくくなるため、実用性は限られています。

色覚に異常がある人は、進学や就職が不利だと聞きましたが、実情を教えてください。
 社会的な差別撤廃の機運の高まりとともに、制度的な障害はほとんどなくなりました。進学については理系学部でも全く問題なく受験できます。就職についても、以前は義務づけられていた入社時健康診断の色覚検査が廃止されました。ただ、電車の運転士やパイロットなど、職業特性上、色覚で適性が決まる職種もあります。また、それら以外にも雇用側の判断で、色覚検査が求められるケースもあります。

 実際に職業を選択する場合には、職業適性の一つとして色覚のことを考慮しておいたほうが、結果として効率がよいこともあります。自分の色覚異常は軽度だから大丈夫と思っていたのに、働き出してから意外な問題に気付き、色覚外来に相談に訪れるというケースが確かにあります。制度上の制限、実際的な問題、自分の色覚異常の程度・傾向について、ふだんからできるだけ情報を多く集めておくことが、就職の際の強い味方になると言えます。

 就職後は、自分の色覚の異常を打ち明けられる人間関係を築くことが理想です。「微妙な色については教えてください」。これが受け入れられれば、色覚に異常がある人の悩みは解決します。これからの社会が、個人のハンデキャップに、より寛容になることが望まれます。

 問題解決は情報集めから 

 色覚の異常があると、進路選択や就職の際になにかしら問題が生じることは事実です。それらの問題をより前向きに解決していくためには、情報を多く取り入れることが役立ちます。「色覚問題研究グループ ぱすてる」では、通信紙の発行、電話による色覚に関わる相談の受付、イベントの開催など幅広い活動を行っています。またホームページ上で、色覚専門の外来がある医療機関などの情報を掲載しています。

◎電話相談「色覚110番」
 03−3924−4110
(火曜10〜16時、土曜10〜18時)
◎ホームページ
 http://www.pastel.gr.jp/
 
男の人の5パーセントが色覚に異常があるだなんて、アイ、知らなかった。今まで無関心すぎたみたい。反省。これからは色覚に異常がある人と、もっといろんなことを話し合いたいな。そうして少しずつ、みんなが暮らしやすい社会にするのがアイの夢。それじゃみんな元気でね! バイバイ!!
 


シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (西葛西・井上眼科病院院長、東京女子医科大学名誉教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2016年2月改訂