目と健康シリーズ No.7

Eye & Health
 


編集
日本大学医学部眼科教授
湯沢 美都子 先生

特集:加齢黄斑変性


 

も く じ

「目が悪くなるのは年のせい。少しぐらいはがまんしないと」、なんて思っている人はいない? そんなこと言ってないで、すぐにちゃんと診てもらったほうがいいっていうのが、今日のお話みたいなの。

網膜の中心、『黄斑』の老化で視力が低下

 加齢黄斑おうはん変性は、網膜もうまく(カメラのフィルムにあたる組織)の黄斑というところに異常な老化現象が起こり、視機能(視力や視野)が低下してくる病気です。黄斑は網膜のほぼ中央にあり、ほかの部分の網膜に比べて視機能が格段によく、物を見る要の部分です。
 新聞を読むとき、読み取る文字は常に視野の中央にあり、そこから数文字でも外れたところの文字は、相当読みづらいものです。それだけ黄斑と黄斑以外の視力差は大きいわけで、その分、黄斑は日ごろ最も酷使している部分といえます。
 なかでも黄斑の中央、直径約0.2〜0.35ミリメートルにあたる中心窩ちゅうしんかは、とくに視機能が鋭敏な一点です。視力検査でいう「視力」とは、中心窩の視力のことです。眼底の病気の治療は、この中心窩の機能をどれだけ回復・維持できるかが大きなポイントです。

一番見たいところが見えなくなる

 加齢黄斑変性の症状は、視野の中央がよく見えない、ゆがむ、暗く見える、などです。最初は片方の眼に起きて程度も軽いために、患者さん本人は年のせいにして見過ごしていることも少なくありません。しかし、徐々に、病型によっては急速に、視力が低下してしまいます。通常、中央以外の視野は保たれ全く光を失ってしまうことはありませんが、見たいところが見えず読みたい文字が読めないという、とても不便な状態になってしまいます。
 欧米では中途失明原因のトップが加齢黄斑変性です。日本でも急速な高齢化や生活様式の変化などのためか、やはりこの病気に伴う視力障害者が急増しています。患者さんのほとんどは60歳以上で、女性より男性に多いという特徴があります。

新生血管によるものか否かでタイプ分け

  加齢黄斑変性には二つのタイプがあり、視力の経過や治療手段が異なります。

萎縮いしゅく型(非滲出型)

 黄斑の組織が加齢とともに萎縮してくるもので、加齢黄斑変性の多くはこのタイプです。黄斑の老化現象が病的に進んだ状態と考えられますが、詳しい原因はまだよくわかっていません。症状の進行はゆっくりで、萎縮部分が拡大し中心窩にかからない限り、高度の視力障害には至りません。
 萎縮型の加齢黄斑変性は、今のところこれといった治療が行われません。確実に有効な治療法がないということもありますが、進行が遅いので高度の視力障害に至るとしても、それまでかなりの年月があるため、試験段階にあるような治療手段の適応にはなりにくいのです。ただし、萎縮型から滲出型へ変化し進行が早まることもあるので、定期的に通院することが大切です。
加齢黄斑変性(滲出型)
黄斑を中心に出血と滲出物がみられます。

滲出しんしゅつ

 健康な状態では存在しない新生血管と呼ばれる異常な血管が、黄斑部の脈絡膜みゃくらくまく(網膜より外側に位置し、血管が豊富な膜)から発生し、網膜側に伸びてくるタイプです。新生血管の血管壁は大変もろいために、血液や血液成分が黄斑組織内に滲出し(漏れ出し)、黄斑機能を障害します。
 萎縮型よりも進行が早く、新生血管の成長とそこからの出血や滲出物により、視力低下や変視症へんししょう(物がゆがんで見える)、中央の視野が欠ける、などの症状が悪化していきます。新生血管はある時期がくれば活動を停止します。しかしそのときはすでに黄斑の網膜組織は破壊されていて、永続的に高度の視力障害(矯正視力で0.1以下)が残ってしまいます。
 ここからは、滲出型加齢黄斑変性の治療について解説していきます。なお、この病気の治療目的は、進行を抑えてその時点の視機能を保つことが主眼であることを知っておいてください。一度障害された黄斑を修復し視機能を回復させる手段はないのが現状です。

なぜ新生血管が発生するのでしょうか?

 新生血管が発生する過程は現在、次のように考えられています。
 網膜細胞は機能している限り新陳代謝を繰り返しています。新陳代謝で生じる老廃物は、若いうちは網膜と脈絡膜の間にある網膜色素上皮内で消化されて消えてしまいます。しかし、加齢により網膜色素上皮の働きが低下すると、未消化の老廃物がブルッフ膜(網膜色素上皮の下にあり、脈絡膜との境目にある膜)に溜まります。この老廃物の存在は、眼底検査でドルーゼンと呼ばれる白い塊として見ることができます。
 老廃物は、本来そこにあってはいけないものですから、それに対して慢性の弱い炎症反応が持続します。するとその炎症を鎮めようと、ケミカルメディエーターと呼ばれる一種の化学物質が発生します。ケミカルメディエーターは炎症の治癒を促すために、血管の発生を促す因子を放出して、その結果、脈絡膜から新生血管が生えてくるのです。
 新生血管は、ブルッフ膜の下にあるうちは活発には活動しませんが、一度ブルッフ膜を突き破って網膜色素上皮の下、あるいは網膜色素上皮の上まで侵入してくると、急に増殖し始めて血液や血液成分の滲出が激しくなり、黄斑の機能低下が著しくなります。

新生血管の位置と大きさで治療を決める

まずは新生血管を見つける

インドシアニングリーンという造影剤を使った検査で見つかった脈絡膜新生血管
 滲出型加齢黄斑変性の治療で最初のポイントは、黄斑変性の原因である新生血管を見つけることができるか、という点です。新生血管は網膜の外側の脈絡膜から発生し網膜側に伸びてきますが、網膜と脈絡膜の間にある網膜色素上皮は多量の色素を含んでいるため、脈絡膜の状態を直視できません。また、網膜色素上皮の上に出血があると、網膜色素上皮も見えにくくなります。このため、新生血管を見つけられないことがあります。

中心窩外新生血管にはレーザー光凝固

 新生血管が見つかった場合に、次にポイントになるのは、その新生血管が中心窩に達しているか否かという点です。中心窩に達していないのなら、新生血管をレーザー光線で焼きつぶすレーザー光凝固術を施します。これにより新生血管がなくなると病気の進行は止まり、その時点の視機能を保つことができます。出血や滲出物が吸収されることで、視力が回復する人もいます。
 しかし、治療にはマイナス面もあります。血管を焼きつぶすほど強いレーザー光を当てるわけですから、新生血管とともに周囲の正常な網膜も破壊されてしまいます。そのため凝固部は絶対暗点(光をまったく感知できない部分)になり、見ようとする物のすぐ横に、常に見えない部分が生じてしまいます。これは、光凝固後すべての患者さんに生じてしまう現象ですが、一番大切な中心窩を守る治療を優先するためには避けられません。最近では光凝固による絶対暗点を少なくするため、新生血管を取り除く手術が選択されることもあります。

中心窩新生血管には光線力学療法

 新生血管が中心窩に達している場合は、これまでよい治療法がありませんでした。それは、通常のレーザー光凝固では視力が極端に低下してしまうので行えないからです。しかし最近、正常な組織をほとんど傷つけずに新生血管だけを破壊する、光線力学療法という新しい治療が行えるようになりました。その方法は、
囲み記事で詳しく解説します。

新生血管が見つからない場合

 検査をしても新生血管の位置を特定できない場合はレーザーを当てる位置を決められないので、光凝固や光線力学療法を行えません。このようなときは血管強化薬などを用いて出血や滲出物が減ることを期待し経過観察を続けることになります。ただし検査技術の進歩とともに、新生血管が見つからないケースは徐々に減ってきています。

そのほかの治療

経瞳孔けいどうこう温熱療法
 正常組織への影響を抑えるために、通常のレーザー光凝固よりも弱い赤外線レーザー(網膜温度の上昇は10℃)を当てる方法です。新生血管からの滲出が止まり新生血管が枯れる場合がある一方で、効果がみられないこともあります。網膜が色素上皮から剥がれてない場合(黄斑部に網膜剥離が起きていない場合)や出血がある場合は行えません。

栄養血管の光凝固
 新生血管が中心窩に伸びているものの、その起点(栄養血管)は中心窩から離れているような特殊なケースに、起点の部分をレーザー光凝固することで新生血管全体を枯れさせる治療法です。中心窩にはダメージを与えずに治療できます。

手術治療
 新生血管を手術で物理的に取り除くこともあります。しかし新生血管と同時に正常な網膜も一緒に取れてしまうという欠点があります。また、黄斑部の網膜を剥がして正常な部分に移動し貼り直す手術もあります。この手術も術後の視機能の改善が十分ではありません。いずれの方法も適応となるケースは限られています。

光線力学療法の進め方

方法 まず、光に対する感受性をもつ薬を肘の静脈から点滴します。その薬が中心窩下の新生血管に到達したとき(点滴開始から15分後)レーザー光を当てて、その薬に化学反応を起こさせます。すると強い毒性のある活性酸素が発生して新生血管の内壁が障害され、血管が閉塞します。通常のレーザー光凝固では網膜の温度が40℃以上上昇しますが、この方法では2℃しか上がりません。また、使用する薬は増殖性の高い異常な細胞に多く取り込まる一方、新生血管周囲の正常な組織にはほとんど取り込まれません。そのため中心窩の新生血管だけがつぶれて周囲の網膜には障害がなく、視力が落ちたり絶対暗点ができたりすることがありません。
治療対象になる人ならない人 中心窩に新生血管があって視力が0.5以下に低下している人がよい対象となります。ごくまれに治療後に視力が低下することがあるので、視力が0.5よりもよい人は積極的な対象になりません。また病変のサイズが大きすぎる場合も、レーザー光の照射範囲に収まりきらないので、この治療を行えません。そのほか、進行した糖尿病網膜症など網膜血管の病気がある人や薬に対するアレルギーのある人なども、受けることができません。
治療後の注意 体から薬が抜けるまでは強い光に当たれません。皮膚に強い光が当たると、やけどを負う可能性があります。このため治療後2日間の入院が必要で(初回のみ)、退院後も3日間は外出時に長袖長ズボンに手袋・帽子・サングラスを着用しなければならず、手術や歯科治療も受けられません。
継続治療が大切 1回で新生血管が消えることは少なく、3カ月ごとに定期検査を受ける必要があります。新生血管が残っている限り治療を繰り返します。現時点では、一人の患者さんに1年間で平均3回行っています。
効果 新生血管がなくなった時点で病気の進行は止まり、視機能を維持できます。視力がやや改善することもあります。
副作用 非常にまれに眼底出血が起きたりして視力が低下することがあります。全身的なことでは、光線過敏症、注射時の背部痛、注射部位の発赤などがあります。

視力を維持するための4つのポイント

黄斑部のドルーゼン
加齢黄斑変性(浸出型)の前段階になりやすい、黄白色のやわらかい外観の大きなドルーゼンが多数みられます。このあと新生血管が発生することが多いので、それを早期発見するために定期的な眼底検査が必要です。
(1) 異常を自分で見つけるように心掛ける
 加齢黄斑変性から視力を守るカギは、一にも二にも早期発見です。進行の早い滲出型でも、中心窩に達していない小さな新生血管を早期に発見できれば、効果的な治療が行え視機能の維持・改善の可能性が高くなります。
 この病気の進行には加齢が基礎にありますから、一度治療が成功しても完治したとはいえず、再発することが多々あります。また初めは片方の眼に発症しますが、しばらくするともう片方の眼に発症することも少なくありません。視力を守るためには、まず患者さん自身が再発や健康な眼での発症を早期発見できるように心掛けることが大切です。
 もし、物がゆがんで見える、視力が低下したようだ、などの気になることがあれば、すぐに眼科を受診してください。全く自覚症状がない人でも、50歳を過ぎたら一度、眼底検査をしてもらったほうがよいでしょう。ドルーゼンや他の老化に基づく所見があれば、定期的な眼底検査が必要です。

(2) たばこはやめる
 世界中の多くの調査研究で、たばこが加齢黄斑変性の危険因子であることがわかっています。しかも15年以上禁煙を続けないと喫煙の悪影響がなくならないと言われますので、今すぐにでも禁煙したほうがよいと思われます。
(3) 亜鉛と抗酸化ビタミンを多めに摂る
 アメリカで行われた調査研究で、加齢黄斑変性になりやすい黄斑所見のある人が亜鉛と抗酸化ビタミンを大量に摂ると、加齢黄斑変性の発病率が低くなることがわかりました。亜鉛が豊富な食材(カキなど)や新鮮な濃緑色野菜をなるべく多く食べるようにしましょう。また、ホウレン草やケールに含まれているルテインも有効ですし、青魚に多いω-3脂肪酸もよいとされています。
(4) サングラスなどで日光から目を守る
 強い光、とくに太陽光の中の青い光が網膜に当たると、網膜に有毒物質が溜まりやすくなります。サングラスやツバ付きの帽子で目を守りましょう。サングラスは、紫外線と青色光をカットするタイプを使ってください。

 目から33センチメートル離し、中央の白い点を見詰めます。このとき、老眼の人は眼鏡などで矯正するのを忘れずに。また、必ず片方の目をつぶってチェックしてください。
 縦横の線がゆがんで見えるところはありませんか? 見えないマス目はありませんか?
 このチェックを1日1回は行い、異常を感じたらその場所を記録して、すぐに眼科を受診してください。

 ※ マス目の間隔が5ミリに見える設定で
アムスラーグリッド

 目が悪くなる原因はいろいろあるんだから、「変だな?」って思ったら、早合点しないで、ちゃんとお医者さまに原因を調べてもらわなくちゃダメだよ。

シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (東京女子医科大学眼科教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2005年5月改訂